エンコルピオのブログ

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教授の父 異なる視点から

 継続的に読んでいる作家の黒木亮が去年12月に出版した「兜町の男 清水一行と日本経済の80年」を読み終えた。


それについて詳しくコメントすることは控える(ブクログに一応書いたので)が、主人公の清水一行が経済記者(週刊誌の株情報の記事を書いたりするルポライター?)から小説家に転身する経緯がなかなか興味深く読めた。


思いがけない人物とのエピソードが描かれていたのだ。


清水が半年かけて書いた原稿を河出書房新社の編集部に持ち込み、坂本一亀(坂本龍一の父)に預ける。
当時、三島由紀夫や野間宏、椎名麟三といった作家を発掘した名編集者として評判が高かったそうだ。
しかし坂本は清水の原稿を読んで検討するのだが3年たってもいっこうに出版の段階に至ることがないので、他の出版社(三一書房)に違う原稿を持ち込んで出版してくれる運びとなり、出版されると証券業界を中心に評判となり大いに売れた。


このブレイクに大いに動揺したのが坂本だった。
清水は第2弾の作品として坂本に預けた原稿を返してくれるよう河出書房新社を訪れたが、坂本はデビュー前に散々清水の原稿を読み検討したことの恩をきせ返却を拒み、それどころか印税率を下げて河出書房新社で出版することを認めさせる。


坂本にしてみれば多くの作家の卵の原稿を読む中での1人で、かつ当時高橋和巳の処女作に関わっていたそうで、得意な純文学とは異なる経済の世界を描いた清水の作品はその評価が難しかったのだろう。


清水にしてみれば恩を感じていたので預けた作品の出版は認めたものの、他社で売れたら手のひら返しのように出版を迫り、しかもそのことで社内がもめて説得したかのように他社に劣る条件で契約させられたことに憤りを感じていたようだ。
その後清水は多くの作品を発表するが、河出書房新社からは出版していない。


ちなみに教授(1人息子)と父とは、昭和にありがちな家父長制の名残を時代背景に戦争から帰還した名編集者(別名鬼の編集者)として出版業界では有名だったそうだ。


教授がYMOの細野さんとの会話で父親について目を合わせることもできないくらい怖い存在だったと語っていた。


それでもNHKのファミリーヒストリーという番組で教授の家族を扱った(2018年4月23日(月)放送、残念ながら見ていない、矢野顕子のは見たのになあ)以前に教授が父が編集長をしていた文藝のスタッフの方に父が存命中に父のことを書いて本にしてほしいと頼んだそうです。
父が2002年に逝去されたそうですからそれ以前に依頼したということなんでしょう。
それが本となって出版されたのが2018年4月30日で、「伝説の編集者 坂本一亀とその時代」田邊園子著という本です。


この本(未読)も当時の文学界や出版界の様子を知ることが出来て興味深いのですが、できれば教授と父の絆を描いた本が出版されたら読んで見たいですね。
もう企画されているかな?