追悼 グレンダ・ジャクソン
21世紀の日本でもLGBTの理解を促進する法案が国会を通るご時世になったのだが、元々社会の中で暗黙の裡に一定の割合で多数派の異性愛とは異なる性愛を志向する人間がいることは知られていた。
個人的にそのような存在をはっきりと認識したきっかけがジョン・シュレンジャー監督の「日曜日は別れの時」(1971)という作品だった。
中年医師とイケメンの若い芸術家と夫と別居中のキャリアウーマンの三角関係を描いた作品で、イケメンをめぐる(つまりバイセクシュアル)話だ。
お洒落なタイトルからまさか中年の医師と若いイケメンが抱擁しキスする展開とは予想していなかったので大いに衝撃を受けた。
それはもう一人の主役であるキャリアウーマンにとっても予想外な事実で、受け止めることに苦労しイケメンを中年医師とシェアするような関係に悩み最終的に精神的な破綻を招くことになる。
この難しいヒロインを演じていたのがグレンダ・ジャクソンだった。
そもそも日本ではキャリアウーマンと呼ばれるような存在はまだ認知されていないような時代で、クールに平静を装いながら複雑な三角関係に巻き込まれるヒロインの葛藤する心情を自然にかつ見事に演じきった。
その後クールで時にシニカルで大胆なヌードも厭わないGジャクソンは、70年代の自立した女性像のアイコンとして注目される女優となった。
特にケン・ラッセル監督の「恋する女たち」(1969)や「恋人たちの曲/悲愴」(1970)での演技は確かな人物の造型力と迫力で、英国を代表する女優として印象つ”けられた。
ちなみに前作はアカデミー賞主演女優賞を獲得している。
ついでにいえば「ウイークエンドラブ」(1973)では2度目のオスカーを受賞している。
ただその後は必ずしも当時のような強烈なインパクトを与える作品の印象は薄い(もちろん全部見ているわけではないが)。
「ホップスコッチ/或るエリート・スパイの反乱」(1980)での軽妙な演技やKラッセル監督作品「サロメ」(1988)「レインボウ」(1989)で主演でないがキラリと光るところも見せてくれていた。
しかし彼女は1992年の庶民院選挙に労働党(ブレア党首)から出馬し、見事当選してブレア内閣で1997年から1999年まで運輸政務次官を務めたそうだ(新聞記事による。この点は記憶にない)。2015年には出馬せず、政界を引退したそうだ。
そんな彼女が今月15日亡くなった。
素晴らしい演技で感動を与えてくれた彼女の冥福を祈りたい。
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